白昼の出来事はぎりぎりのところで保っていた均衡を崩すには充分だった。
実行犯は捕まらず、何の情報も無い中で街中に流れる噂は貴族連中のしわざという噂。
それは軍を焦らせるには充分な時間。
焦りは思考を空転させ、行き過ぎた空転はやがて行動へと移る。
現在の軍を抑えられる人物は<シルバ>少将だけなんだが少将は今意識が無い状態。

「エライオン王、この事態を収拾するには……。」
「いや、こうなったら他国に頼ってでも軍を抑えよう。」
「それは領土を奪われる可能性が。」
「我等の身分さえ保障されれば。」
 軍の暴発に対する対策を考えている貴族達の会議。
というにはあまりにも稚拙というか何と言うか。
結局は、保身が最優先、という立場からの議論。
聞いていても何の意味も成さないが、ここから離れる訳にもいかないってのが辛いな。
兄さんの後には<巨猪>が貴族達を睨むように見ている。
俺も一応剣を持ってはいるが兄さんまで距離がある。
万一兄さんに切りかかっても間に合うかどうか……。
少しでもその素振りを見せたらこっちから斬りかかるけど。
「王、どうなさいますか!?」
 貴族の一人が叫ぶように決断を迫る。
が、兄さんは手を向けるだけで答えようとはしない。
そのまま立ち上がり出て行ってしまう。
「くそ、王は何を考えているのだ!?」
 貴族達は俺を見るが、それは俺も知りたい事だ。

「さぁ、そろそろ始めましょう。」
 その状況を薄く笑いながら見ているのは<毒蛇>と呼ばれる少女ただ一人。

 一部の軍人が貴族を襲った。
その行動は徐々に大きくなり、王都から地方へと飛び火する。
貴族対軍。明確な対立を生んだ。
「貴族を討ち滅ぼせ、王を捕らえよ!」
 この声が王都から地方へ響く時、国は内乱の炎に包まれる。
ほんの少し前まで賑わっていた市街は静まり返り、行き交う人々の変わりに武装した兵が駆けている。
敵を発見したという声が聞こえると、追い詰められた悲鳴が聞こえる街。

「さて、どうなるのかしらねぇ?」
 窓の外を眺めている姉さんが呟く。
「どうなるも何も……。」
 現状を打破する案は俺には無い。
流通は徐々にではあるが動いてはいるが、治安が悪いために略奪が始まっているらしい。
「こうなったら覚悟は決めておきなさい。」
「覚悟って……。」
「今の状況では事態を収拾出来る事は難しいわ。」
「少将の意識が戻れば軍は抑えられるかもしれませんが。」
「現状いない人間に頼るのはダメよ。」
 返す言葉が無い。
「私達に出来る事は国を見届けることね。」
「見届けるって……それじゃまるで。」
 姉さんが振り返る。
「時代はこの国を変えようとしているかもね。」
 姉さんは窓から離れ、剣を持ちドアの前に立つ。
「じゃ、私は行くわ。」
「行くってどこへ?」
「そうね……。」
 上を向いて何かを考えてる。
「私の気に入らない方向へ時代を動かしている元凶。」
「元凶って?」
「じゃ、ちょっと行ってくる。」
 にこやかに笑いドアの向こうへと消えていく姉さん。
待ってくれって言う声はドアに遮られた。
 姉さんは何か情報を掴んだのか……。
一人残り考える。
 ナッシュバール王の暗殺から政府内部の対立の激化。
このまま行けば最悪、内乱って事も考えられる。
それは阻止しないと……。
しばらく様々な考えが浮かんでは消え、ぐるぐると頭の中を駆け回る。
「えええええええええええええええええええい!」
 俺は立ち上がり、ドアへと向かう。
考えたって始まらない。今回の事態を知っている人間を俺は一人知っている。
 ラビット!
この街に居るのは間違いない。どうにか見つけて話を聞きだしてやる!
俺も剣を持ち部屋を出る。

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